【アルミリサイクルの現状】アルミニウムは枯渇しない。それでもなぜリサイクルが重要なのか?

こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。

アルミニウムの原料である「ボーキサイト」は、地球上に豊富に存在しており、資源としては枯渇の心配がほとんどありません
実際、世界の埋蔵量はおよそ250億トンといわれ、これまで人類が使ったのはそのうちのわずか1億トン程度にすぎません。

「なら、なぜアルミをそんなにリサイクルする必要があるの?」

今回はこの問いを出発点に、日本におけるアルミリサイクルの全体像・課題・そして未来の展望をやさしく解説します。


日本はなぜリサイクルに依存しているのか?

日本では、かつてボーキサイトからの新地金(一次アルミ)の精錬が行われていました。
1977年には年間約120万トンの新地金が国内で生産され、国内需要の過半を支えていた時期もありました。

しかし、1970年代のオイルショックによって電力価格が急騰し、
エネルギーを大量に使うアルミ精錬は、経済的に成り立たなくなります。

その結果:

  • 1990年代には大半の製錬所が閉鎖
  • 2014年、最後の国内製錬所(静岡県・蒲原)が操業終了

現在、日本で流通する新地金はすべて輸入品
そのため日本は「リサイクルに頼るしかない構造」になっているのです。


📊 アルミリサイクルの現状(2025年時点)

指標数値
年間アルミニウム需要約400万トン
新地金(国内)ゼロ(全量輸入)
再生地金(二次アルミ)約150〜160万トン
再生材使用比率約40%
アルミ缶リサイクル率97.5%(2023年)
Can to Can率75.7%(2024年推定)

→ 再生材が全体需要の約4割を占めており、特にアルミ缶の回収率は世界トップクラスです。


🌍 世界と比較して見えてくる日本の“強み”

国際アルミニウム協会(IAI)の2022年調査によれば:

  • 世界のアルミ缶回収率:約71%
  • そのうち再び缶として再生される(Can to Can率)のはわずか33%

つまり、回収されたアルミの多くが別用途に流用される“カスケードリサイクル”が世界の主流です。

対して日本は、**回収率97.5%、缶 to 缶率75.7%**という
**質と量を両立した世界有数の“高循環国家”**となっています。


🔥 アルミリサイクルが重要な3つの理由

① 圧倒的なエネルギー効率

製造方法エネルギー使用量
新地金(一次アルミ)約15,000 kWh/t
再生地金(市中スクラップ)約500 kWh/t(約97%削減)

アルミの融点は**660℃**と比較的低く、溶解にかかるエネルギーも少なくて済みます。


② CO₂排出量が大幅に少ない

製造ルートCO₂排出量(t-CO₂/t)
新地金(グローバル平均)約11〜16 t
再生材(市中スクラップ)約0.6 t
再生材(工場内スクラップ)約0.3 t

この差は約20〜50倍。アルミをリサイクルすることは、
カーボンニュートラル実現に直結する選択肢となっています。


③ “低炭素アルミ”が企業の調達基準に

  • 欧州では**CBAM(炭素国境調整制度)**が導入され、排出量に“コスト”がかかる時代へ
  • ロンドン金属取引所(LME)も2025年3月までに排出データの提出を義務化予定
  • 飲料・自動車・建材メーカーでは、CO₂排出の少ない再生アルミを優先調達する動きが加速

→ アルミリサイクルは「環境対策」だけでなく、ビジネス上の競争力にもつながり始めています。


⚠️ 現在の課題|なぜ“完全循環”はまだ難しいのか?

❶ カスケードリサイクルの問題

回収されたアルミが、元の用途に戻れず**“格下の製品”に置き換わってしまう**現象です。

例:
アルミ缶 → 板材 → 鋳物部品 → 雑品 → 再生困難に…


❷ 不純物の蓄積と管理の難しさ

  • 鉄・シリコン・銅などの不純物がスクラップに混入しやすく、
  • 高品質な再生品(展伸材・缶材など)には戻せない

→ 結果として「再生=低グレード化」の流れが続いてしまいます。


❸ 国内スクラップの海外流出

  • 回収された高品質スクラップ(UBCなど)が中国などに輸出されるケースが増加
  • 国内で再資源化されず、循環ループが弱体化

🔭 今後の展望|“戻せなかったアルミ”を戻せる時代へ

✅ アップグレードリサイクル技術

たとえば富山大学が開発するSn浴を使ったSi除去技術では、
鋳造材スクラップ → 展伸材や缶材へ再利用できる可能性が広がっています。


✅ AI・成分トレーサビリティの導入

  • LIBS(レーザー誘起分光分析)などでリアルタイムに合金を自動識別
  • 成分履歴をデジタル管理し、不純物リスクを低減

✅ 世界的に広がる「環境情報つき素材」の流通

  • 欧州CBAM、LME排出データ義務化
  • 低炭素アルミの**“プレミアム価格”がつく市場**も形成されつつあり
  • 日本も今後、環境性能が数値で証明できる再生材が求められます

✅ まとめ|アルミは“掘るより戻す方が合理的”な資源

ボーキサイトが豊富にあっても、新地金をつくるには
膨大な電気・コスト・CO₂排出が避けられません。

だからこそ、アルミは「掘るより戻す方が環境にも経済にも優れている金属」なのです。

  • 日本はすでに新地金をつくれない国
  • 世界は“環境情報付き素材”を選ぶ時代へ
  • リサイクルは“エコ”だけでなく“戦略”になった

あなたの出したアルミ缶や製品が、
次の循環の一部としてどんな価値を生むか——。
それは、今後の社会を左右する大きな鍵になるかもしれません。