こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。
鉛は、私たちの生活インフラを支える鉛蓄電池(車載・産業用・非常用)を中心に使われる金属です。実はこの分野、世界でもっとも循環が進んだ“優等生”の一つ。とりわけ使用済み鉛電池の回収・再資源化は極めて高い水準にあります。
では、鉛はどこから回収され、どう再資源化され、最終的に何になるのでしょう?
日本と世界の最新トレンド、課題、そして展望をまとめて解説します。
🧪 鉛とは?——用途の“ほぼすべて”が電池
鉛の最終用途は約8〜9割が鉛蓄電池(自動車の始動・産業用バックアップ・再エネ蓄電など)。国連環境計画による整理でも、世界の鉛消費の約86%が鉛蓄電池と明記されています。つまり「鉛=電池」が実態で、回収・再生の“勝ち筋”もここに集中します。 UNEP – UN Environment Programme
日本の全体像(2025年の肌感)
- 国内需要の中心:自動車・産業用の鉛蓄電池
- 資源調達:鉱石は海外依存、国内は**二次鉛(スクラップ由来)**の重要度が高い
- 二次原料の柱:①使用済み鉛蓄電池(ULAB)、②鉛・鉛合金スクラップ、③含鉛ダスト/スラッジ
- 循環の強み:電池は回収ルートが確立しており、高い再生率で回っている
要するに日本は、電池中心の回収スキームを“きっちり回す”ことが供給安定と環境対応のカギです。
🔎 流れ別に見る:何をどう回収し、何に生まれ変わる?
1) 使用済み鉛蓄電池(ULAB)
- 何を:自動車・産業・非常用の鉛蓄電池。
- どう再資源化:バッテリーブレーカーで樹脂・電解液・鉛ペースト/グリッドを分離→ペーストの脱硫→製錬(炉)で粗鉛→精製(軟鉛/合金鉛)。電解液は硫酸ナトリウム等に転換し有効利用。
- 出口:新しい鉛蓄電池用の鉛が中心(ほぼクローズドループ)。
2) 鉛・鉛合金スクラップ(板金・はんだ・放射線遮蔽材 など)
- どう再資源化:選別→製錬→精製→軟鉛/合金鉛に再生。
- 出口:電池用鉛、はんだ・遮蔽材などへ。
3) 含鉛ダスト/スラッジ
- どう再資源化:前処理(乾湿式)で不純物を管理しながら製錬原料へ戻す。
🌍 世界と比較すると見えてくる“差”と“強み”
- 米国:使用済み鉛電池の回収・リサイクル率は実質99%。新しい鉛電池の80%以上が再生鉛でできています。循環設計が極めて成熟。 Battery Council International+1
- EU:電池規制の枠組みのもと、鉛蓄電池のリサイクル効率は各国とも目標(65%)を上回る水準。**EU域内は“ほぼクローズドループ”**に近い運用です。 European Commission+1
- グローバルの注意点:一部の新興国では非公式(インフォーマル)な回収・製錬が残存し、周辺住民の鉛暴露リスクが国際機関から繰り返し指摘されています。フォーマルな事業者への移行が国際課題です。 UNEP – UN Environment Programme
🔥 それでも鉛リサイクルが重要な3つの理由
① 需要は安定(車・産業・非常用)
ICE車だけでなくハイブリッド/EVでも補機用として鉛電池が使われ、バックアップ電源・基地局・データセンターなど産業用途も堅調。e-bikeや小型ストレージも地域によって需要源に。 esteri.it
② 高純度で“何度でも”戻せる
鉛は製錬→精製で高純度を確保しやすく、同じ電池用途へ循環させやすい(実質クローズドループ)。
③ 環境・コスト両面の合理性
鉛鉱石の採掘・製錬に比べ、二次鉛はエネルギー・CO₂・コスト面で優位。米欧では再生鉛が標準原料になっています。 eurobat.org+1
⚠️ なぜ“完全循環”になりきらないのか(現在の課題)
❶ インフォーマル回収の公衆衛生リスク
一部地域では露天での破砕・燃焼など非公式リサイクルが継続。土壌・水系汚染や住民の鉛暴露が深刻で、フォーマル事業者への移行・規制執行・代替生計の整備が急務です。 UNEP – UN Environment Programme
❷ トレーサビリティ/データの“見える化”不足
米欧は進む一方、グローバルには回収〜製錬〜出荷のデータ連携が途切れる地域も。真にクリーンな再生鉛を証明する枠組みが広域で必要。
❸ ポータブル電池の回収は地域差
車載・産業用は高水準でも、ポータブル電池(持ち運び型)は国や地域で回収率にバラつき。家庭系の分別・回収動線の設計が鍵です。 欧州環境庁
🔭 展望:データで“良い循環”を証明し、世界標準へ
EU水準の“フォーマル循環”を横展開
米国並みの99%回収やEUの規制ベースの高効率は“成果が出る設計”。拡大生産者責任(EPR)+回収インセンティブ+国内製錬の受け皿がセットで効きます。 European Commission+1
環境情報つき素材(カーボンデータ)へ
アルミ等と同様、CO₂可視化と価格連動がバッテリーにも波及。再生比率・排出原単位・鉛暴露対策を数値で示せる再生鉛が“指名買い”される時代に。
用途の広がりと安定需要
自動車の補機・産業バックアップ・再エネ蓄電で、鉛は**“見えないところで支える存在”**として堅調。国内回収ルートの磨き込み+輸出入に依存しない製錬キャパが、中長期の競争力になります。 Stryten Energy
✅ まとめ——“クローズドループ”をさらに強くする
- 鉛は電池中心の金属。だからこそ回収しやすく、同じ電池へ戻しやすい。
- 米国の99%回収、EUの高効率リサイクルは実証済みの勝ち筋。
- 次の一手は、インフォーマル対策の国際連携と環境データの可視化。
- **「安全・低炭素・データで証明できる二次鉛」**が、これからの標準になります。

