🏭 銅が上がると、なぜ亜鉛・アルミも上がる?|非鉄金属相場の「つれ高」メカニズムと実務への影響

こんにちは、非鉄ナビ運営事務局です。

ここ数か月、LME銅価格は歴史的な水準に急騰しています。この動きを追う中で、現場の皆様から「銅が上がると、不思議とアルミや亜鉛の買取り価格も連動して上がってくるのはなぜか?」という声を多くお聞きします。

本記事は、この非鉄金属特有の**「つれ高」現象**を、単なるニュース解説ではなく、実需と投資資金の流れ、そして供給サイドの構造という3つの視点から、非鉄・スクラップ業界のプロフェッショナル向けに徹底解説します。

相場の先行指標である「銅」の動きを理解することは、スクラップの仕入れ・在庫戦略を立てる上での重要な鍵となります。


1. 「つれ高」の背景:非鉄金属は最終用途が似ている

銅・亜鉛・アルミニウム・ニッケルといった主要な工業金属(ベースメタル)は、利用される最終用途が極めて類似しています。

  • 自動車産業(特にEV化)
  • 建設・インフラ(電線、配管、サッシ、建材)
  • 電気・電子機器(コンデンサ、基板、ハウジング)
  • 再生可能エネルギー関連(太陽光パネル、風力発電)

つまり、これらは「個別産業の動向」ではなく、「世界的な景気サイクル」に需要が強く依存する共通の特性を持っています。

銅価格の急騰は、単に「銅の需給がタイト」というだけでなく、「グローバル製造業全体の生産活動が活発化している」という、より広範な景気回復のサインとして市場に受け取られます。結果、製造業の回復期待から、同じ景気敏感金属である亜鉛やアルミにも連動して買いが入りやすくなります。


2. 資金の連動:投資ファンドによる「インデックス投資」の影響力

非鉄金属相場の「つれ高」のもう一つの決定的な要因は、巨大な投資資金の動きにあります。

世界の機関投資家やヘッジファンドは、銅や亜鉛の先物(LMEやCOMEX)を一つひとつ買うこともありますが、それ以上に、複数の工業金属をパッケージにした金融商品に投資するケースが非常に多いのです。

これは、投資家が「非鉄金属というアセットクラス全体」に、景気回復を見越した資金をまとめて投じる行為(バスケット買い)です。

簡単に説明すると、「銅」単体に投資するのではなく、「銅、アルミ、亜鉛、ニッケル」など全て複合した金融商品に投資するケースが多いのですね。

それにより、非鉄金属全体が連動した動きになる事が多いのです。


3. 供給サイドの構造:複合鉱山における「副産物」としての連動性

実需サイドの構造にも「つれ高」を後押しする要因があります。それは、非鉄金属が単独ではなく、複合鉱山から産出されるケースが多いという点です。例えば、チリやペルーの巨大な銅鉱山では、銅を掘る過程で**亜鉛や鉛が副産物(By-products)**として同時に得られます。

この供給構造が、相場の連動性を生み出します。

供給増が価格を下げない、複雑な「需給の綱引き」

一般論として、供給が増えれば価格は下落に向かいます。しかし、この複合鉱山における亜鉛・鉛の供給増が直ちに価格を下落させないのは、「需要の連動(景気敏感性)」と「資金の連動(ETF)」という二つの強大な要因が同時に作用しているためです。

相場が上昇局面にあるときのメカニズムは以下の通りです。

  1. 銅価格が高騰する(景気回復・需要増が背景)。
  2. 銅鉱山の採算性が大幅に改善し、稼働が活発化する。
  3. 副産物である亜鉛や鉛の供給量も一時的に増加する。

この時、副産物である亜鉛や鉛は、**銅の強烈な需要増(景気回復期待)**と工業金属全体への強力な買い付け圧力に強く引っ張られます。

亜鉛や鉛の供給が増えても、それを上回る「景気回復に伴う需要の増加期待」が市場全体で優位に立つため、結果として価格は銅に連動して上昇しやすくなるのです。つまり、「供給が増えることで価格が下がる」という効果よりも、「(銅によって示される)景気回復という強力な需要増シグナル」が、価格を押し上げる力の方が一時的に優位に立つと考えられます。

💡 注意点:価格調整(下落)リスク

ただし、この構造は永遠ではありません。景気回復期を過ぎ、銅の価格が落ち着いた後に、複合鉱山からの亜鉛や鉛の供給増が市場で過剰と認知された場合は、ご指摘の通り一時的に亜鉛・鉛価格の調整(下落)を招く可能性はあります。

非鉄金属相場は、このように先行する銅の価格と、遅れてくる副産物の供給増との複雑な需給の綱引きで成り立っていることを理解しておく必要があります。


4. 銅は「ドクター・カッパー」と呼ばれる理由と相場への影響

銅は古くからその景気先行性から、「ドクター・カッパー(Doctor Copper)」、すなわち「世界経済の体温計」と呼ばれてきました。

銅が上がると世界景気が回復基調にあるというサインといわれてきました。

(1.)景気敏感金属全体の需要期待が高まる

(2.)投資家が工業金属ETFへの資金投入を拡大する

亜鉛・アルミなど他のベースメタルにも買いが波及し、「つれ高」が発生する

この流れから、銅は他の非鉄金属相場全体の「先行指標」としての役割を果たします。多くのケースで、銅が先行してピークやボトムをつけ、数週間~数ヶ月のタイムラグで亜鉛やアルミが追随する傾向が見られます。


5. まとめ:実務家が「つれ高」から読み取るべきこと

銅と亜鉛、アルミの価格連動は、単なる偶然や類似性ではなく、以下の三位一体の構造によって必然的に生じる現象です。

  1. 実需の重なり: 共通の景気サイクルに依存する景気敏感性
  2. 資金の流れ: 投資ファンドによるETF(バスケット)投資
  3. 供給のつながり: 複合鉱山における副産物としての連動

非鉄スクラップ業界の皆様にとって、銅の価格動向は、将来的なアルミ・亜鉛スクラップの仕入れ・販売価格を予測するための最重要ファクターです。

**今後の非鉄金属市況のトレンドを読むカギは、まず「銅の動き」に注目すること。**そして、その後に続く他のベースメタルの値動きから、在庫戦略や買取戦略を柔軟に調整することが、変動の激しい相場を乗り切るための鉄則と言えるでしょう。


非鉄金属相場に関するさらに専門的な分析や気になる事がありましたら運営事務局までお気軽にお問い合わせください。