こんにちは、非鉄ナビ運営事務局です。
非鉄金属の国際ニュースで必ず登場する**「LME(ロンドン金属取引所)」**。
「なんとなく価格の基準らしいが、どうやって決まるのか?」「LMEの在庫は本当に現物不足を意味するのか?」
今回は、このLMEの基本構造から、在庫の仕組み(ワラント)」、そして日本の「建値」がどのように連動しているのかまでを、非鉄金属のプロフェッショナル向けに徹底解説します。
LMEの理解は、国際相場の変動リスクを読み解く第一歩です。
1. LMEとは?:世界の金属価格を決める唯一無二の“プロの舞台”
LME(London Metal Exchange:ロンドン金属取引所)は、世界の非鉄金属の国際基準価格を決める唯一の取引所です。
ここでは、銅・亜鉛・アルミニウム・鉛・ニッケル・錫といった主要なベースメタルが、毎営業日、ロンドン時間を基準に取引されています。
限られた企業しか参加できない「プロの会員制度」
LMEの最大の特徴は、誰でも自由に取引できる市場ではない点です。
実際にLMEで売買できるのは、世界でも限られた数十社の会員企業(Member)のみ。これらはLMEの厳しい財務基準と取引実績を満たした、大手金融機関、国際商社、専門ブローカーなどで構成されています。
代表的なLME会員企業(一部):
- Triland Metals(三菱商事グループ)
- Marex(英国)
- Glencore(スイス)
- JP Morgan Metals(米国)
つまり、世界数十社のプロフェッショナルが、世界中のメーカー・商社・投資家の注文を代行・集約し、その結果形成された価格が、世界の非鉄金属相場を動かしているのです。
2. 世界の価格はここで決まる:日本の「建値」との連動性
LMEで形成された価格は、需要と供給の交点で決まる「実勢価格(LME Cash・3Mなど)」として公表されます。
この価格が、グローバルな金属取引の**ベンチマーク(基準)**となります。
| 金属価格の基準例 | LME価格との関係 |
| 日本の銅・亜鉛・鉛の建値 | LME現物価格(Cash)を基準に、為替、加工費(プレミアム)、コストを加味して算出される。 |
| アジア・欧州の地金価格 | LME価格に現地の輸送費(CIF/FOB)やプレミアムを上乗せして取引される。 |
LMEは、世界の金属価格を決める“心臓”であり、ロンドンで動く数字が、翌日の日本の製錬会社の建値や、結果としてスクラップの買取り価格にも直接影響を与えます。
3. LME在庫の真実:「ワラント」発行の有無が示す需給シグナル
非鉄金属ニュースで頻繁に報じられる「LME在庫」の増減は、需給バランスを示す最重要シグナルです。
LME在庫 ≠ LME公認倉庫内の全金属
LME在庫とは、LMEが認定した世界各地の公認倉庫(例えば日本国内では横浜・名古屋に)に保管されている金属量のことですが、倉庫に入っている全ての金属がLME在庫として公表されるわけではありません。
LME在庫としてカウントされるか否かは、「ワラント(Warrant:倉荷証券)」の発行有無で決まります。
| 状態 | 定義 | LME在庫としての扱い |
| On-warrant(登録在庫) | LME規格を満たし、ワラントが発行された状態。LME市場で即座に売買・流通可能。 | LME公表在庫としてカウント。 |
| Off-warrant(非登録在庫) | 倉庫内にあるが、ワラントが発行されていない状態。製錬会社や商社の私的な保管在庫。 | LME在庫にはカウントされない。 |
要するに、製錬会社や商社が「この金属をLME市場でいつでも売買できるようにしたい」と考えたときだけ、ワラントを発行し、国際市場に販売可能な状態(On-warrant)にするのです。
※具体的な取引の流れは後述します。
4. LME市場での取引:価格決定と「現物」が動く仕組み
LMEの取引は、単なる紙上の金融取引ではなく、ワラントを通じて実際の金属が動く国際流通ネットワークです。
取引の具体的な流れ(例:亜鉛の場合)
- 製錬会社が納入・登録: 製錬会社が電気亜鉛をLME倉庫に納入し、ワラントを発行。この時点で「LME公表在庫」として登録される。
- 市場での売買: 世界中の商社やメーカーが、LME会員ブローカーを通じて注文を出す。価格は電子取引システム(LMEselect)上で決定。
- 買い手による引き取り: 購入した買い手(例:欧州のメッキメーカー)がワラントを取得し、倉庫から現物を引き取る。
この引き取りが発生すると、LME公表在庫はマイナスとして計上され、現物の物理的な物流が始まります。LMEは、「価格を決める場所」であると同時に、「現物が動く国際的なハブ」としての役割を担っています。
5. まとめ:LMEの機能と実務への活用
LMEの仕組みを理解することで、非鉄金属のプロは相場をより深く読み解くことができます。
| 項目 | 内容 | 実務への影響 |
| LMEとは | 世界の非鉄金属の国際基準価格を決める唯一の取引所。約60〜70社の会員だけが参加可能。 | 日本の建値決定の基礎情報。 |
| LME在庫 | ワラント発行済みの金属のみが公表される。 | 在庫減少は、即ち市場での現物不足シグナルであり、仕入れ・在庫戦略に直結。 |
| 取引 | LME会員経由で現物の売買(ワラントの交換)が行われる。 | 商社・ブローカー経由でヘッジ契約や価格連動契約を結ぶことが可能。 |
日本の製錬会社がLME倉庫に金属を預ける行為は、単なる在庫保管ではなく、国際市場でのブランド維持、販売オプションの確保、そしてリスクヘッジを兼ねた戦略的な行動なのです。
LME価格の変動要因、特定の金属のプレミアム(割増金)に関するさらに詳しい情報が必要な場合は、お気軽にご質問ください。
