こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。
ここ最近、中国の業界ニュースとして
「銅・鉛・亜鉛の製錬能力キャップ(上限)を導入すべきだ」
という提言が注目を集めています。
この話題、単に中国の政策というだけでなく、世界の非鉄金属市場にも静かに影響を及ぼす可能性があるため、
今回はその背景から今後の需給まで、ポイントを整理して解説します。
■ 中国で“製錬能力キャップ”が議論されている理由
中国の非鉄業界団体(CNIA)が政府に対して、「製錬所の新規増設に上限を設けるべきだ」と提言したのが今回のニュースの発端です。
対象となるのは主に以下の3金属。
- 銅
- 亜鉛
- 鉛
いずれも中国が世界最大の製錬能力を持つ金属で、特に銅は 世界の精製銅の約45%を中国が生産 しています。
つまり中国が設備投資を止めれば、
世界の供給上限がほぼ決まってしまうほどの影響力を持っています。
■ 背景①|“作りすぎ”による過当競争で収益が悪化している
製錬能力キャップが議論される最も大きな理由は、中国国内で製錬所が増えすぎたこと。
※今更かよ、、、、、、、っていう印象を筆者は受けておりますが。笑
製錬所同士で原料の精鉱を奪い合う形になり、結果として製錬サイドの収益が下がるという“内巻き(インボリューション)”が起こっています。
実際に、
- TC/RC(製錬費)が歴史的低水準
- せっかくの相場高でも製錬会社に利益が残らない
- 小規模製錬所は倒産・縮小が相次ぐ
という状況に近づいています。
中国の業界関係者が「能力キャップが必要」と主張し始めたのは、この悪循環を断ち切るためです。
■ 背景②|銅・亜鉛・鉛の精鉱(鉱石)が足りていない
もう一つの大きな背景は、原料である精鉱が世界的に不足していること。
- チリ・ペルー・コンゴなどでの鉱山トラブル
- 大型鉱山の新規開発が10年以上停滞
- 品位低下の進行
- 鉱山投資の遅れ
この結果、製錬所は「フル稼働したいのに、原料が足りない」という矛盾を抱えています。
設備をどれだけ増やしても、原料が増えなければ稼働できません。
そのため
「これ以上製錬所を増やしても共倒れになるだけ」
という空気が中国国内でも広がっています。
■ 相場は上がっているのに、なぜ製錬メーカーは儲かっていないのか?
銅も亜鉛も中長期的に需要は伸びており、価格も底堅く推移しています。
にもかかわらず、製錬企業の収益は伸びていません。
その理由は非常にシンプルで、
■ 原料(精鉱)が足りず、製錬費が上がらないから
製錬会社の利益の源泉は“TC/RC(加工賃)”。
しかし精鉱が不足すると、製錬所同士が奪い合うため、
- TCが下がる
- RCも下がる
- 原料の買値だけが高くなる
- しかし手数料は低いまま
という構造になり、利益が残りません。
つまり、
相場の強さ(銅価の高さ)=製錬会社の儲け
ではないのです。
これが、能力キャップ提言の背景にある“静かな危機”。
■ 今後の銅・亜鉛・鉛の簡単な需給見通し
これらの状況を踏まえて、今後の需給の見通しは下記の予想が強いようです。
● 銅:強い需要に対して供給不足が続く見通し
- EV・再エネ向け需要が急増
- 世界の銅鉱山増産が遅い
- 2025年:12万トンの供給不足
- 2026年:15万トンの供給不足
→ 需給は今後数年タイトなまま。
製錬能力キャップは、さらに供給サイドを引き締める方向に働く可能性があります。
● 亜鉛:鉱山閉山の影響で、特に供給が伸びにくい
- 一部大手鉱山の閉山
- 生産トラブル
- 中小鉱山の品位低下
供給の伸びが遅れる一方で世界的には建材・めっき用途の需要はそこまで落ちていないため、価格はじわじわ底堅く推移する可能性が高い。
● 鉛:一次鉱山は縮小、二次資源(リサイクル)が中心へ
鉛は他の金属以上に一次鉱山の縮小が進んでおり、世界的に 「リサイクルが供給の主役」 になりつつあります。
- 自動車バッテリー需要は依然として大きい
- 一次鉱山は減り続けている
- リサイクル比率がさらに高まる構造
製錬能力キャップが入れば、ここも供給が締まりやすい市場になります。
■ まとめ|製錬能力キャップは“地味だが非常に重要なニュース”
今回の製錬能力キャップ提言は、単なる中国国内の業界話に見えますが、世界の非鉄市場に与える影響は小さくありません。
・背景:製錬所の作りすぎ/原料不足
・相場:上がっていても製錬会社は儲けにくい
・構造:需給は数年タイト
・結果:スクラップの重要性がじわじわ増していく
特に銅・亜鉛・鉛は、一次資源が増えにくくなっているため、スクラップや副産物系原料の価値が相対的に高まる時代に入っています。
非鉄金属ナビでは、今後もこうした中長期テーマもわかりやすく解説していきますので、毎日要チェックですよ。
