【亜鉛リサイクルの現状】亜鉛は消耗する。それでもなぜリサイクルが進まない?

こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。

亜鉛は、鉄をサビから守るめっき材や、黄銅(真鍮)などの合金成分として、私たちの身の回りで当たり前に使われている重要な金属です。しかも、使用後に再利用できるポテンシャルも備えています。

それなのに、鉄やアルミほど「リサイクル」が話題にならないのはなぜでしょうか。ここでは、亜鉛リサイクルの現状を起点に、世界と日本の違い、そして今後の可能性と課題をやさしく解説します。


🧪 亜鉛とは?——リサイクルに向いた素材なの?

亜鉛の最大用途は**「鉄のめっき」です。身の回りの“サビにくい鉄”の多くは亜鉛めっき鋼材**。さらに、鋳物・真鍮などの合金材料乾電池やタイヤの酸化亜鉛(ZnO)医薬・サプリの必須微量元素など、活躍の場は幅広く、使用済み製品からの回収・再生も可能です。


日本における亜鉛供給の現状

日本の足元を数字で整理すると、全体像が見えてきます。

指標内容(2023〜2025年推計)
年間国内消費量約50万トン前後
自給率(鉱石・鉱泥)約10%以下(鉱石はほぼ輸入)
再生原料比率(粗鋼・真鍮・酸化物由来)約30〜40%
主な用途亜鉛めっき(約55%)、合金・酸化亜鉛など
国内製錬所三井金属、DOWA など

要するに、日本は鉱石資源を海外に依存しており、めっきくず・ダスト・灰などの再生原料を確実に活かすことが不可欠です。


🔎 流れ別に見る:何をどう回収し、何に生まれ変わる?

1) 溶融亜鉛めっき副産物(トップ/ボトムドロス、アッシュ=スキミング)

めっき槽の運転で生じるドロスや、表面に浮くアッシュを選別し、回転炉などで溶解→合金調整。操業条件で品位が変わるため工程内で微量元素やフラックスの管理が要です。SHG相当インゴットめっき用合金ZAMAK系ダイカスト合金に再生されます。

2) 亜鉛めっき鋼の製鋼ダスト(EAFダスト)

電炉(EAF)の集塵ダストにはZn 18–35%が含まれるのが一般的。主流のワールツ(Waelz)法では回転キルンでZn/Pbを揮発・酸化回収し、Waelz Oxide(WOX)を得ます。出口はZnO(ゴムの加硫活性剤)セラミック・ガラス亜鉛化学(ZnSO₄等)製錬原料など多彩です。

3) 亜鉛ダイカスト(ZAMAK)戻り材

鋳造工程の湯道・ランナー・不良ショットなど“歩留まり戻り”を選別・溶解し、成分微調整してZAMAKへ再生。多くは工場内クローズドループで自動車・電機の精密ダイカスト部品に戻ります。

4) 電池(アルカリ/Zn-炭素)

使用済み電池のブラックマス(Zn/Mn主体)を焙焼・還元・浸出してZn/ZnOを回収し、用途に応じて**ZnSO₄(肥料・飼料)**まで展開。ZnO(ゴム/化学)や製錬原料としても活用されます。


🌍 世界と比較すると見えてくる“差”

国際的なEoL(使用済み)リサイクル率は、欧州で60%以上北米で50〜60%。**日本は30〜40%程度(推定)とみられ、欧州のように建材・自動車の亜鉛めっき材を効率回収する“循環設計”**は、国内でまだ発展途上といわれております。


🔥 それでも亜鉛リサイクルが重要な3つの理由

① 資源の偏在
閃亜鉛鉱の主産地は中国・オーストラリア・ペルーなどに偏り、日本を含む多くの国は自給が難しい金属です。

② 高純度での再生が可能
亜鉛は揮発性を活かした熱・蒸留プロセスで精製し直しやすく、新地金に遜色ない品質を得られます。

③ 環境規制・コストへの解
採掘・製錬はエネルギー多消費で、CO₂やSOxの排出も課題。再生材を使えばコストと環境負荷を同時に抑制できます。


⚠️ なぜ“完全循環”になりにくいのか(現在の課題)

❶ 分散使用ゆえの回収の壁
亜鉛は表面(めっき)や薄膜・小物広く薄く使われるため、一括回収が難しく選別コストも高いのが実情です。

❷ ダスト・灰系は技術依存/コスト勝負
EAFダストや溶融灰、真鍮スラッジは含有率・塩素・重金属などの管理が難しく、乾式/湿式プロセスの選択と装置投資、物流設計がカギ。含有率が低いと採算割れに陥りやすくなります。

❸ トレーサビリティとデータ不足
鉄・アルミに比べて、流通情報や成分データの透明性が低いため、再生材の信頼性証明が難しいという調達上の不安が残ります。


🔭 展望:戻せなかった亜鉛を、戻せるように

EU水準のEAFダスト処理を世界へ
欧州はEAFダストの約90%をWaelz処理する一方、世界平均は50%未満。この地域ギャップは、まさに事業機会です。日本でも電炉シフトが進む中、ダスト資源化の中核化が確実に進みます。

クローズドループ(めっき⇄ダイカスト)の増設
めっき副産物とZAMAK戻り材を同一チェーンで循環させる欧州モデルは、CO₂とコストの両面に効きます。国内でもサプライチェーン連携が鍵になります。

“環境情報つき素材”が新標準に
CBAMなどCO₂の可視化と価格連動が進むなか、再生比率・排出原単位・不純物管理数値で示せる再生材が市場で指名買いされる時代に。データ連携とトレーサビリティは、今後の競争力そのものです。


✅ まとめ——“分散して使われる”金属だから、仕組みで回収する

亜鉛は表面・薄膜・小物に分散して使われるがゆえに、回収難易度が高い金属です。だからこそ、EAFダスト・めっき副産物・ZAMAK戻り・電池という4本柱を確実に拾い、クローズドループ環境データの仕組み作りが重要になりそうです。