【ニッケルリサイクルの現状】ステンレス、リチウムでお馴染みのニッケル

こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。

ニッケルは、ステンレス鋼電気自動車(EV)のバッテリーなど、幅広い分野で使われる重要な金属です。さらに、リサイクル価値が高く、資源循環が進みやすい金属でもあります。

では、ニッケルはどのように回収され、どう再利用されているのでしょうか?
今回は、日本と世界のニッケルリサイクルの現状・課題・展望について、初心者にもわかりやすく解説します。


🧪 ニッケルとは?——「高価値だからこそ、回る金属」

ニッケルは主にステンレス鋼(世界需要の約7割)に合金元素として使用されます。建築資材やプラント設備に使われたステンレスは何十年も社会の中で使われ続けるため、廃棄後の回収がしやすく、リサイクルが進みやすいという特徴があります。

また、近年では**リチウムイオン電池(特にNCM系/NCA系)**における正極材料としてのニッケルの需要も急増しています。

ニッケル業界の国際団体であるNickel Institute(ニッケル・インスティテュート)によると、
ニッケル含有製品のうち約68%が廃棄時にリサイクルされており
、さらに15%は“炭素鋼ループ”に流れていると報告されています。
※そして残る**17%**は、回収されずに失われていると推定されています

※炭素鋼ループ:ニッケルを含んだスクラップが選別されずに一般的な鉄鋼製品(炭素鋼)に混ざって使われるケースのこと。
本来の高付加価値用途に戻らず、“格下”で使われてしまうダウングレード循環の一例です。


🇯🇵 日本におけるニッケルリサイクルの全体像

日本では、ニッケルを以下のような形で循環させています。

項目内容(2025年時点推計)
主な用途ステンレス鋼、特殊合金、EVバッテリー、化学品、メッキなど
資源調達鉱石・中間品は輸入依存/スクラップ回収が重要な補完源
主な再生ルートステンレススクラップ、表面処理スラッジ、バッテリー黒粉(ブラックマス)など
二次ニッケルの割合世界需要の約25〜30%を再生由来がカバー(INSG推計)

特にステンレス系スクラップの回収・再生が、日本のニッケルリサイクルの中核となっています。


🔄 回収から再資源化まで|主なニッケルリサイクルの流れ

① ステンレスやニッケル合金のスクラップ

  • 何が出る?
     建築・設備・自動車・機械部品などの老朽化や製造時に出るステンレスくず(SUS304、SUS316など)。
  • どう処理する?
     選別→成分分析→溶解し、再びステンレスや耐食合金に合金素材として戻します。
  • 何に使われる?
     新たな建材、配管部品、化学設備、キッチン機器など。

② 表面処理スラッジ(ニッケルメッキ工程からの副産物)

  • 何が出る?
     工具や自動車部品の表面に施す防錆・外観向上のためのニッケルメッキ処理から、排水・ろ過の過程でスラッジ(泥状の残渣)が発生します。
  • どう処理する?
     脱水・前処理→湿式製錬などでニッケル塩へ→合金原料や化学製品へ再利用。
  • 何に使われる?
     再びニッケルメッキ材や合金材料、化学品の原料として再利用されます。

③ バッテリー黒粉(ブラックマス)

  • 何が出る?
     使用済みEVバッテリーや製造歩留まりから発生する粉末状の正極材成分(※)
  • どう処理する?
     前処理→乾式/湿式プロセス→硫酸ニッケルなどに再生→正極材へ
  • 何に使われる?
     EVや再エネ蓄電池などの正極材(NCM/NCA)に再投入されます。

※ブラックマス:リチウムイオン電池を破砕・分離した際に得られる、ニッケル・コバルト・マンガン・リチウムなどの混合金属粉末。


🌍 世界と比較してみる|日本の課題とチャンス

地域特徴
欧州ステンレス・電池ともに高水準のリサイクル率。環境ラベル付き素材(CO₂排出の可視化)が進行中。
米国2024年のニッケル消費の54%をスクラップ由来でまかなう(USGS)。主にステンレススクラップを活用。
中国/東南アジア一次供給(鉱石、HPAL、NPI)に強みがある一方、電池リサイクルの集中が進行中。
日本ステンレス系は回収ルートが整備済み。今後は電池回収〜前駆体製造までの内製化がカギ。

🔥 ニッケルリサイクルが重要な3つの理由

① 安定して高価なスクラップ市場がある

ニッケルを含むステンレスや合金は価値が下がりにくく、市場で常に需要があるため、回収・リサイクルのサイクルが経済的にも成り立ちます。


② EV電池の“都市鉱山”が増える

EVや再エネ蓄電池の普及により、今後数十万トン規模のニッケルを含んだブラックマスが各国で回収される見込みです。
再生インフラを整えれば、鉱山1〜3カ所分を置き換えるだけの供給力になります。


③ 一次供給は地政学的リスクが高い

ニッケル鉱石の主産地(インドネシア・フィリピンなど)は政策の影響を受けやすく、価格変動も大きいです。
そのため、国内や地域内で完結する二次ニッケル供給体制の構築が求められています。


⚠️ なぜ“完全循環”にはなっていないのか?(課題)

❗ 合金の混合・分析が難しい

ニッケル入りステンレス・合金は多種類あり、混ざると再利用しにくくなります
そのため、**高精度な選別・分析技術(LIBS・XRFなど)**が必要です。


❗ ブラックマスの前処理が複雑

使用済み電池から出るブラックマスには、フッ素や有機溶媒などの不純物も多く含まれており、乾式・湿式の複合プロセスで適切に処理する必要があります。


❗ 環境情報・トレーサビリティの整備が遅れている

「どこから来たニッケルか」「どのくらいCO₂を出しているか」を証明できないと、環境負荷が低い素材として選ばれません
欧州ではすでに環境データの提示が求められ始めています。


🔭 今後の展望|“良いニッケル”をデータで証明する時代へ

  • ステンレス→ステンレスへ戻すための合金選別・AI選別の強化
  • ブラックマス→硫酸ニッケル→前駆体というEV電池サイクルの国内化
  • CO₂排出や再生率を「見える化」した素材の普及(例:環境ラベル付き硫酸ニッケル)

「安いから使う」ではなく、「どこの誰がどんな工程でつくった素材か」で選ばれる時代へ。
ニッケルリサイクルも、いま“第二の転換点”を迎えています。


✅ まとめ|ニッケルは「ステンレスで回し、電池で跳ねる」時代へ

  • ニッケルはもともと**高リサイクル率の金属(約68%)**であり、ステンレス市場でしっかり循環してきました。
  • 今後は電池用途のニッケル(硫酸ニッケル等)の再生体制構築が競争力の分かれ目に。
  • 安定したスクラップ市場+急成長する電池回収市場」という二面性を持つのがニッケルリサイクルの魅力です。