【錫のリサイクルの現状】はんだ・メッキ・ブリキから再資源化される錫の流れと課題をやさしく解説

こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。

錫(すず)は、はんだメッキブリキ缶電子部品などに幅広く使われている非鉄金属です。日常生活ではあまり意識されませんが、錫はリサイクル可能な金属であり、しかも製品寿命が短く、すぐ戻ってくる金属でもあります。

今回は、日本と世界の錫リサイクルの現状・用途・課題・展望について、初心者にもわかりやすく解説します。


🧪 錫とは?——「小さいけれど重要な金属」

錫(元素記号Sn)は、比較的やわらかく、融点も低く(232℃)、はんだ材やメッキ材として重宝されてきた金属です。主な用途は以下のとおり:

  • はんだ(Sn-PbやSn-Ag-Cu):電子基板や自動車電子機器
  • 錫メッキ鋼板(ブリキ):缶詰など食品包装材
  • 合金成分(青銅、バビットメタルなど):軸受、楽器、工芸品
  • 化学品・酸化錫:ガラスやセラミックの透明導電膜など

使用される場所は小さくても、高度な技術や機器の信頼性に欠かせない金属です。


🇯🇵 日本における錫リサイクルの全体像

錫は、生産の多くを輸入鉱石や地金に依存しており、国内でのスクラップ回収と再生が安定供給の鍵になっています。

項目内容(2025年時点推計)
国内年間需要約3万〜4万トン程度(変動あり)
主な用途はんだ・メッキ・合金・化学品
国内精錬ほぼなし(一次生産なし)/再生メイン
主な再生ルートはんだスクラップ、メッキくず、工業廃液スラッジ、ブリキ屑など
再生率国際的には約30〜35%(ITRI推計)/日本はそれ以上と推定される

錫は製品寿命が短いものが多いため、数年以内に市場へ戻ってくる“フロー性金属”でもあります。


🔄 錫リサイクルの主な流れ

① 使用済みはんだ(基板・実装不良・製造端材)

  • 何が出る?
     実装不良品、リワークで外された電子部品、製造過程のドロス(酸化物)や余剰はんだ
  • どう再生?
     溶解・精製→成分調整→新しいはんだ合金や純錫インゴットに再生
  • 用途例:再び電子基板実装用のはんだ材として再利用されます

② 錫メッキスクラップ(ブリキ缶など)

  • 何が出る?
     食品用空缶、廃棄されたメッキ鋼板、メッキ工程の副産物(スラッジ等)
  • どう再生?
     鋼板を処理して表面の錫を回収(溶出または熱処理)→粗錫→精錫化
  • 用途例:再びメッキ材や化学品へ

③ 化学・表面処理スラッジ(排水処理残渣)

  • 何が出る?
     錫メッキ工程の排水・洗浄処理から出る錫含有スラッジ
  • どう再生?
     乾燥・焼成・湿式処理により錫を回収
  • 用途例:酸化錫、再生地金、メッキ材料など

🌍 世界と比較して見えてくる錫のリサイクル事情

地域特徴
欧州錫スクラップのEPR(拡大生産者責任)に基づく回収が一部で導入。WEEE指令の対象。
アジア(中国・マレーシア等)大規模製錬と再生が混在。黒鉛炉や真空蒸留など多様な技術が存在。
日本はんだ・メッキ品の精密な選別・前処理技術が強み。多くは中小の再生事業者で循環。

世界的な統計では、錫のリサイクル率は**30〜35%程度(ITRI試算)**ですが、日本では製品ごとの回収率が高いため、これ以上と推定されます。


🔥 錫リサイクルが重要な3つの理由

① 資源が偏在し、一次供給にリスクがある

錫の鉱石は主にインドネシア・中国・ミャンマー・コンゴなどで産出されますが、近年は採掘制限や政情不安による供給リスクが高まっています。


② 再生が技術的に容易でコストも見合う

錫は融点が低く、合金成分もシンプルなため、スクラップの溶解・精製が比較的容易です。
製錬・精製プロセスも中小企業レベルで対応可能な技術範囲にあり、リサイクルビジネスとしても成立しやすい金属です。


③ 電子部品のリードフリー化により純度要求が高まっている

近年、鉛フリー(RoHS対応)化の流れで、高純度な錫ベースはんだ(Sn99.9%以上)が主流になっており、
再生品においても微量不純物(Bi、Sb、Feなど)の管理
が重要視されています。


⚠️ 現在の課題(なぜ“完全循環”は難しい?)

❗ 微細分散で回収が難しい

電子部品に使われる錫は、極小サイズ・微量で使われることが多く、
解体・分離の手間に対して回収価値が合わないケースもあります。


❗ 工程ドロス・スラッジの管理コスト

メッキ・実装工程では、酸化ドロスや含水スラッジが大量に出ますが、
これらの回収・乾燥・成分管理には継続的なコストと技術力が必要です。


❗ 価格変動でリサイクル採算が揺れやすい

錫価格(LMEなど)は比較的高価な金属ですが、
市況が下がると「新品地金のほうが安くなる」こともあり、再生コストが見合わない局面もあります。


🔭 今後の展望|“微量でも確実に戻す”技術へ

  • 高精度の解体・選別装置(XRF・カメラ・AI制御)の導入
  • 高純度はんだ再生工程の標準化と微量元素管理
  • 錫スラッジ→酸化錫への化学変換で高付加価値化
  • 家電やプリント基板からのマイクロ錫の回収技術の開発

✅ まとめ|「量は少ない、でも確実に戻せる」金属

  • 錫は、使用量そのものは非鉄金属の中でも比較的小さいものの、
     製品寿命が短く、回収しやすく、再生しやすいという特性があります。
  • はんだ・メッキ・ブリキ・化学品など、多くの用途で再び使われるルートが確立済み
  • 今後は「微細でも確実に回収し、高純度で戻す」技術と仕組みが、錫リサイクルの質を左右します。