〜異金属ゼロを目指す次世代リサイクルライン、その導入価値を考える〜
こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。
いま、ヨーロッパのアルミリサイクル現場では、
AIとレーザーが人の代わりにスクラップを見分ける時代が到来しています。
「亜鉛や鉛が混じっても、AIが一瞬で弾く」
——そんな話を聞くと、思わずこう思う方も多いのではないでしょうか。
「うちのヤードでも、そろそろ導入を検討すべきか?」
この記事では、欧州で実際に導入が進む
AI+X線+レーザー分光(LIBS)によるアルミ選別技術の実態と、
その投資価値、そして日本国内での最新動向をわかりやすく紹介します。
■ 背景:異金属混入がアルミ品質の“ボトルネック”に
アルミスクラップのリサイクルで常に問題になるのが、
亜鉛・鉛・鉄・銅といった異金属の混入です。
たとえば、
- サッシに付着した鉄ネジ
- ホイールのバランスウェイト(鉛)
- メッキ層に含まれる亜鉛
これらが溶解炉に入ると、合金の成分が狂い、品質クレームの原因になります。
従来は人の目や磁選で対処してきましたが、
今やそれでは追いつかない時代。
欧州のリサイクル現場では、
**「異物を見逃さないAIライン」**が次々と立ち上がっています。
■ 技術概要:AI+X線+LIBSが選別を完全自動化
🩻 X線(XRT/XRF)で“密度”を見抜く
X線で金属内部の密度を測定。
鉛や亜鉛のような“重い金属”は、AIが即座に判別します。
アルミ(軽金属)とは透過率が全く異なるため、
物理的な重さの違いで瞬時にふるい落とせます。
🔬 LIBS(レーザー誘起分光)で“成分”を分析
レーザーを一瞬だけ照射し、表面から飛び出す光を分析。
AIがその光の波長データを読み取り、
「これはZnを含む」「これはPbだ」と元素レベルで識別します。
👉 この時点で、混ざり物を“科学的に”排除できるというわけです。
■ “アルミの種類(合金系)”まで見分けられる
この技術の本当のすごさは、
単に「異金属を見分ける」だけではなく、
アルミの“種類”=合金系(3000系・5000系・6000系など)まで判別できる点にあります。
LIBSは金属の中に含まれる微量元素(Mg、Si、Mn、Znなど)を読み取れるため、
AIがそのデータを学習して、
「これは5000系(マグネシウム系)」
「これは6000系(Mg+Si系)」
「これは3000系(マンガン系)」
といったレベルまで数ミリ秒で自動判定できます。
この技術によって、
アルミを“ただのスクラップ”ではなく、
再利用先(展伸材・鋳物材など)ごとに分けて再投入することが可能になったのです。
■ ラインによる自動分別:AIが見て風で分ける
では、判別した後はどう分けているのでしょうか?
これもすべてラインで自動化されています。
ベルトコンベアの上をスクラップが流れると、
AIがカメラ・X線・レーザーのデータを同時に分析し、
「これは5000系」「これは6000系」「これは異金属」とリアルタイムで分類します。
AIが合金系を判断した瞬間、
コンベアの下に設置されたノズルが**“プシュッ”と空気を吹き出し、狙った破片だけを弾き飛ばす**。
これで、数センチのアルミ片でも種類ごとに瞬時に分別できるんです。
💡欧州の最新ラインでは、1秒間に数十個のスクラップを処理できる精度。
合金系別に分けた後は、溶解炉や再生インゴットラインへ自動搬送されます。
■ 導入効果:歩留まりと販売単価が同時に改善
欧州の大手リサイクラーでは、この技術により次のような成果が出ています👇
| 項目 | 従来 | AI選別導入後 |
|---|---|---|
| 歩留まり | 約82〜85% | 90〜95%へ上昇 |
| 品質クレーム | 時々発生 | ほぼゼロに近い |
| 人件費 | 高コスト | 約30〜40%削減 |
| インゴット販売単価 | 一般グレード | 高品位グレードで+15〜25円/kg |
さらに、LIBS分析で得られた成分データを納品書に添付する事例も。
つまり、「AI+データで品質を保証する時代」に入っています。
■ 日本でも実証から実用化へ動き出している
欧州だけでなく、日本国内でもこのAI選別技術の導入実績が出始めています。
- UACJ・J-FARなどの実証試験では、廃車由来のアルミをAIとLIBSで成分分析し、
3000系・5000系・6000系など合金ごとに自動仕分けすることに成功。 - **自動車リサイクル大手「アビヅ」**では、LIBS装置を実際のラインに導入し、
展伸材として再利用できるレベルの精度で選別を実現しています。 - 鉄道車両・家電リサイクル分野でもNEDOプロジェクトを中心に、
水平リサイクル(=同用途への再利用)の実証が進行中です。
つまり、AI選別はもはや「海外の話」ではなく、
**日本のヤード現場でも導入検討が始まっている“現実的なテーマ”**になっています。
■ まとめ:「導入の議論を始める価値」はある
| 観点 | AI選別導入の影響 |
|---|---|
| 生産性 | 自動化・省人化が進む |
| 品質 | 成分保証で差別化可能 |
| 収益 | 歩留まり・単価アップで利益率向上 |
| ブランド価値 | 高品質リサイクル企業として評価上昇 |
「AIで異金属を排除する」という言葉は、
もはや未来の話ではありません。
欧州ではすでに、“AIが品質保証を担うヤード”が標準になりつつあります。
そして日本でも、その波は確実に押し寄せています。
「うちでも導入を検討すべきでは?」
そう思った企業こそ、次の競争のスタートラインに立っているのかもしれません。

