「銅ショック」到来か? 価格高騰が止まらない理由と、日本企業・スクラップ業界への影響

こんにちは、非鉄金属ナビ運営事務局です。

ロンドン金属取引所(LME)の銅価格が、供給不安と根強い需要を背景に、過去最高値を更新しました。「ドクター・カッパー(Doctor Copper)」とも呼ばれ、世界経済の先行指標とされる銅。その価格高騰は、国内外の製造業やスクラップ市場に大きな波紋を広げています。

本記事では、価格高騰の背景、今後の見通し、日本市場への影響について、初心者にも分かりやすく整理して解説します。


1. 価格高騰の背景:なぜ今、銅が上がっているのか?

今回の価格高騰は、単一の理由ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発生しています。

  • 深刻な供給懸念(モノが足りない) 最も大きな要因は「供給不安」です。世界の主要な銅生産国で、鉱石の生産が計画通りに進んでいません。
    • アフリカ(ザンビアなど): 大手鉱山での生産トラブルや、電力不足(干ばつによる水力発電の出力低下)が生産の足かせとなっています。
    • 南米(チリ、ペルー): 世界最大の生産地域ですが、鉱石の品位(含まれる銅の割合)の低下や、水不足、規制強化などにより、生産量を増やすのが難しくなっています。
  • 旺盛な「グリーフレーション」需要(モノが必要) 供給が細る一方で、銅の需要は非常に旺盛です。特に注目すべきは、**脱炭素社会(グリーン・トランスフォーメーション)**に向けた世界的な動きです。
    • 電気自動車(EV): 従来のガソリン車に比べ、1台あたり約3〜4倍の銅を使用します。
    • 再生可能エネルギー: 太陽光発電や風力発電の設備、そしてそれらを送る送電網の増強に、大量の銅が不可欠です。
    • AIとデータセンター: 人工知能ブームに伴うデータセンターの新設ラッシュも、電力消費が大きいため、銅需要を押し上げています。
  • 低水準の在庫(市場のバッファがない) LMEが認定する倉庫の銅在庫(市場ですぐに使える銅)が歴史的な低水準にあります。在庫が少ないと、少しの買い注文が入っただけでも価格が跳ね上がりやすくなり、価格変動(ボラティリティ)が非常に大きくなります。

2. 今後の見通し:この高値は続くのか?

客観的に見ると、銅市場は「構造的な供給不足」の局面に入った可能性が高く、中長期的には高値圏での推移が続くと見る専門家が大勢です。

  • 短期的見通し: 短期的には、投機的な資金(ファンド)の動きも活発化しており、価格の乱高下は続くと予想されます。しかし、前述の通り在庫が極めて少ないため、供給不安を煽るニュースが出れば、さらに価格が上昇する(ショート・スクイズ)可能性も残っています。
  • 中・長期的見通し: 需要面では、EVや再生可能エネルギーへの移行は世界的なトレンドであり、今後数年~数十年にわたり銅の需要は増え続けると予測されています。 一方、供給面では、新しい銅鉱山を開発して実際に銅を生産できるようになるまでには、10年以上の長い時間と莫大な投資が必要です。つまり、**「需要はすぐに増えるが、供給はすぐには増やせない」**という構造的なギャップが、中長期的に銅価格を下支えすると考えられています。
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3. 日本市場への影響:私たちへのインパクトは?

銅資源のほぼ全量を輸入に頼る日本にとって、この価格高騰は多方面に深刻な影響を及ぼします。

  • 国内の銅建値(メーカー仕入れ価格)の上昇 日本の銅メーカーが設定する国内向けの銅価格(建値)は、LME価格に連動しています。LMEの最高値更新は、即座に国内の建値に反映され、過去最高水準に達しています。さらに、円安がこの動きに拍車をかけており、輸入コストは二重に上昇しています。
  • 製造業(川下)へのコスト圧迫 電線・ケーブル、エアコン、自動車部品、電子基板など、銅を部材として使うあらゆる製造業にとって、深刻なコスト増となります。このコストを最終製品の価格に転嫁(値上げ)する動きが、さらに広範な物価上昇につながる可能性があります。
  • 非鉄スクラップ市場への影響 私たち(非鉄スクラップ業界)にとっても、これは重大な局面です。
    • スクラップ相場の高騰: 銅建値の上昇に伴い、銅スクラップ(ピカ線、並銅、込銅など)の国内仕入れ価格も連日高騰しています。
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    • 価格変動リスクの増大: 相場が高騰している局面では、価格の変動幅(ボラティリティ)も極端に大きくなります。仕入れ時と販売時の価格差(マージン)の管理が非常に難しくなり、在庫リスクの管理がこれまで以上に重要になります。
    • 発生元の動向: 工場などからの発生(スクラップの排出)動向にも注意が必要です。相場高騰を見て発生量が増えるか、あるいは逆に景気減速懸念で発生自体が減るか、見極めが求められます。

まとめ

銅価格の歴史的最高値は、一時的な現象ではなく、**「供給の限界」と「脱炭素という新たな需要構造」**という2つの大きな地殻変動によって引き起こされています。

私たち非鉄業界に身を置く者として、この高騰する相場とどう向き合い、いかに価格変動リスクをヘッジしていくかが、今後の事業継続において極めて重要なテーマとなっています。

非鉄金属ナビでは、引き続きLME相場、国内建値、スクラップ相場の動向を追いかけ、分かりやすく整理した情報をお届けしていきます。