こんにちは。非鉄金属ナビ運営事務局です。
「銅建値が1週間で9万円も動くのに、相場の方向感がまったく見えない」「アルミは上がっているのに、銅はどんどん下がる。何が起きているのか」――2026年3月、こうした声が業界の至るところから届いています。
2026年2月28日、米国・イスラエルによるイランへの攻撃が始まりました。ホルムズ海峡が事実上封鎖され、世界の原油輸送量の約20%が一度に遮断されるという前代未聞の事態です。非鉄金属市場はこの衝撃に、トランプ政権の関税政策、中国の需要急減という3つの逆風が重なり、かつてない「4方向からの不確実性」に飲み込まれました。
この記事では、我々が独自に収集・分析した市場データと、LME・国内銅建値・海外アナリストコメントを照合しながら、「なぜ今、ベテランほど動けないのか」という構造的な問いに正面から答えます。現場の実務判断にそのまま活かせる形でお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。
2026年3月の非鉄スクラップ市場をめぐる4つの異変
2026年3月の非鉄スクラップ市場は、互いに連動しながら増幅し合う4つのリスク要因に同時に直面しています。「中東情勢」「トランプ関税」「中国需要の急減」「為替変動」です。
これほど多方向から圧力がかかる局面は、2008年のリーマンショック以来と言っても過言ではないかもしれません。しかも、4つのリスクのどれもが「いつ、どのくらいの規模で動くか」が読めないという点で、従来の価格変動とは質が異なります。まずはその全体像をつかんでいただくために、直近の主要データを確認しておきましょう。
| 指標 | 直近値 | 備考 |
|---|---|---|
| LMEアルミ3ヶ月先物 最大上昇幅 | +10% | 紛争開始〜2026年3月12日 |
| アルミ 年初来騰落率 | +13% | 2026年3月18日時点 |
| 銅 3月単月の下落幅 | ▲8%超 | 2026年3月18日時点 |
| 国内銅建値(2026年3月23日) | 196万円 | 前回比▲9万円、昨年12月以来初の200万円割れ |
| 中国の精製銅消費 前年比 | ▲8% | 2025年第4四半期 |
| 世界銅の供給過剰量(2025年) | 60万トン | 2009年以来最大 |
数字を並べると、アルミの急騰と銅の急落が同時進行している、という非常に珍しい構図が浮かび上がります。なぜこんな状況になっているのでしょうか。章ごとに整理していきます。
ホルムズ海峡封鎖がアルミ・銅に与えた直撃
2026年2月28日、米国・イスラエル両国がイランへの攻撃を開始しました。イランはこれに対抗し、ホルムズ海峡を事実上封鎖。世界の原油輸送量の約20%が一度に遮断されるという前代未聞の事態が現実となりました。
※以下は、我々が複数の海外メディア(CNBC・Bloomberg・Wood Mackenzie・Argus Media)および国内銅建値情報を照合して独自にまとめた一次情報分析です。
アルミ:中東の生産拠点が直撃を受けた
アルミは今回の紛争で最も直接的な打撃を受けた金属です。中東は世界のアルミ生産量の約8〜9%を担っており、金属そのものの輸出だけでなく、原料であるアルミナ・ボーキサイトの輸入ルートもホルムズ海峡に依存しています。
さらに事態を深刻にしたのが、バーレーンに拠点を置く世界最大級のアルミ精錬所Alba社の動きです。同社は年間生産能力の19%にあたる生産量を削減することを発表しました。供給側の大きな穴が突如として開いた形です。
この結果、LMEアルミの3ヶ月先物は紛争開始から3月12日にかけて最大+10%の急騰を記録。年初来の騰落率も+13%に達しました(2026年3月18日時点)。
銅:「逆方向」の急落が始まった理由
一方、銅はアルミとは真逆の動きをたどりました。イランは銅の主要サプライヤーではないため、供給途絶という直接的な材料はありません。しかし、エネルギー価格の急騰がインフレを加速させ、世界的な景気後退リスクを高めるという「間接的な悪材料」が銅を売り込みました。
3月18日には、銅が3月単月だけで8%超の急落を記録し、2026年に入ってからの上げ幅をほぼ全て失いました。国内の銅建値も3月23日時点で196万円となり、前回比9万円の下落。昨年12月以来初めて200万円の節目を割り込みました。
見落とされがちな「硫黄問題」
実務者の間でまだ十分に意識されていない問題として、「硫黄の供給途絶」があります。銅の湿式製錬には硫酸が不可欠であり、その原料となる硫黄は湾岸諸国が世界輸出量の約45%を担っています。ホルムズ海峡の封鎖はこのルートも直撃しており、銅の精錬コストを押し上げる要因として、今後じわじわと効いてくる可能性があります。価格の表面的な下落に隠れがちですが、コスト構造の変化として注視が必要です。
トランプ関税が市場の判断を止める「見えない爆弾」
中東情勢と並んで市場を揺るがしているのが、米国の関税政策です。すでに半製品の銅には50%の関税が課されており、精製銅(電気銅)への関税も2026年中頃に決定される見込みです。
問題は金額の大きさではなく、「いつ来るか・どのくらいの規模か」が読めないことです。ゴールドマン・サックスは15%の関税実施を想定していますが、前倒しの可能性も排除できません。
Red Cloud Securitiesのグローバル商品ストラテジスト、ケン・ホフマン氏はこう分析しています。「銅やあらゆる金属の価格は、米国政府の行動による世界的な不確実性に動かされている。需要のためではなく、在庫の先積みのために銅が米国へ流れ込んでいる状態だ」。
この在庫の先積みが一段落した瞬間、需要の反動減が価格を押し下げる可能性があります。それがいつかは、誰にも読めません。これが「見えない爆弾」と呼ばれるゆえんです。
中国の需要急減:値段は高いのに需要がないという矛盾
銅の価格は2026年も歴史的な高水準にあります。しかし、世界最大の消費国である中国が需要を急激に落としています。2025年第4四半期、中国の精製銅消費は前年比8%減という大幅な落ち込みを記録しました。
さらに視野を広げると、2025年の世界銅市場は60万トンの供給過剰(2009年以来最大)でした。2026年もさらに30万トンの供給過剰が予測されています(ゴールドマン・サックス推計)。
「値段は上がっているのに、実際には余っている」――この矛盾した状況が、買い手をためらわせ、売り手も強気に出られない二律背反を生んでいます。皆様の現場でも、「引き合いが少ない」と感じている方は多いのではないでしょうか。
業界に広がる「ハンドトゥマウス」戦略とは
中東情勢、トランプ関税、中国の需要急減という3つのリスクが重なった結果、製錬メーカーや金属加工メーカーのバイヤーの間で広まっているのが「ハンドトゥマウス(hand-to-mouth)」と呼ばれる購買戦略です。
ハンドトゥマウスとは、大きな在庫を抱えず、必要な分だけその都度調達するという考え方です。一見すると慎重な判断に映りますが、背景には「高値で仕入れた直後に価格が急落すると、手元在庫の価値が瞬時に目減りするリスクを避けたい」という切実な理由があります。
1週間で銅建値が9万円動く局面では、大口の先買いは文字通りギャンブルに等しい。この判断自体は合理的です。しかし、買い手全員がこの戦略を採ると何が起きるか。取引量が減り、市場全体が静まり返ります。これが現在の「様子見」相場の実態です。
以下の表で、5つのリスク要因が非鉄金属市場に与える影響を整理しておきます。
| リスク要因 | 主な影響を受ける金属 | 影響の性質 | 深刻度 |
|---|---|---|---|
| 中東情勢・ホルムズ封鎖 | アルミ(直接)、銅(間接) | 供給途絶・物流コスト上昇・景気悪化懸念 | 最大 |
| トランプ関税 | 銅(全体) | 価格方向感の喪失・在庫積み増しによる歪み | 大 |
| 中国需要の急減 | 銅・アルミ全般 | 実需の低迷・供給過剰の拡大 | 中〜大 |
| 円相場の変動 | 国内銅建値全般 | 海外価格変動をさらに増幅 | 中 |
| 下流産業の低迷 | 全般 | 建設・自動車の調達意欲の低さ | 小〜中 |
今後のシナリオと実務者へのメッセージ
では、今後の市場はどちらに動くのでしょうか。我々の分析では、現時点では強気・弱気の2つのシナリオが拮抗しており、どちらが現実になるかは以下の「2つの転換点」にかかっています。
強気シナリオ:アルミ4,000ドル超も視野
中東紛争が長期化した場合、アルミはLME価格で1トン4,000ドルを超える水準も視野に入ります。同時に、エネルギー安全保障への意識の高まりから「再生可能エネルギー向け金属」への長期投資が加速し、脱炭素に欠かせない銅・アルミの構造的な需要増加が前倒しで到来する可能性もあります。
弱気シナリオ:全金属への下押し圧力
逆に、エネルギー高がインフレを加速させ、各国中央銀行が利上げに踏み切るシナリオでは、景気後退が現実味を帯びます。その場合、銅・アルミを含む全非鉄金属に強い下押し圧力がかかります。欧州ではすでに景気停滞リスクが高まっており、このシナリオも決して遠い話ではありません。
転換点として注目すべき2つのポイント
強気・弱気どちらのシナリオに傾くかを判断するうえで、我々が最も重要視している転換点は2つです。
1点目は、ホルムズ海峡の再開通の有無です。海峡が再開すれば、アルミの供給懸念は一気に後退します。ただし、軍事情勢の変化は予測が極めて困難であることは言うまでもありません。
2点目は、米国による精製銅への関税決定(2026年中頃予定)の内容です。15%で着地するのか、それとも上振れするのか。この決定が出るまでの間、市場の「様子見」ムードは続く可能性が高いと我々は見ています。
短期の乱高下に目が奪われがちですが、長期的な方向性も忘れてはなりません。S&Pグローバルの推計では、EVの普及やAIデータセンターの急増を背景に、銅の世界需要は2025〜2040年で約50%増(2,800万トンから4,200万トンへ)が見込まれています。今の「嵐」が過ぎた先に、非鉄スクラップの戦略的価値が一段と高まる局面が来ると見てよいでしょう。
1冊にまとめました
銅・アルミ・ニッケル・錫・亜鉛・鉛の予測を、仕入れ・販売にそのまま使える形で。
まとめ
本記事では、2026年3月の非鉄スクラップ市場が「様子見」に陥った構造的な理由を、我々が独自に収集・分析した市場データをもとに解説しました。要点を整理します。
2026年2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃とホルムズ海峡封鎖が、アルミの急騰と銅の急落という正反対の価格変動を同時に引き起こしました。アルミは中東の直接的な供給途絶(バーレーンAlba社が年産能力の19%を削減)を背景に一時+10%の急騰を記録し、銅は景気後退懸念から3月だけで8%超の急落となりました。
これにトランプ政権による関税の不確実性、中国の精製銅消費の前年比8%減、世界的な60万トン規模の銅供給過剰が重なり、バイヤーは「ハンドトゥマウス」戦略(必要な分だけ都度調達する)を採らざるを得ない状況に追い込まれています。
今後の方向感を左右する転換点は、ホルムズ海峡の再開通と2026年中頃に予定される米国の精製銅関税決定の2点です。この2つが明確になるまでは、「少量・短サイクル」の購買戦略が合理的な判断と言えます。
一方、長期的には銅・アルミの構造的需要増(2040年に向けて銅需要+50%予測)という大きな追い風も現実です。目先の乱高下に振り回されながらも、非鉄スクラップの戦略的価値は中長期で高まり続けるという方向性は変わりません。
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